ダイアリー

一期一会

先日、久しぶりに会った学生時代の友人とついつい飲み過ぎて、終電を逃してしまった。
友人を先にタクシーに乗せ、今度は自分のタクシーを見つけようと千鳥足で歩き始めると、後ろから「おーい」と声をかけられた。
振り返ると、20代の若い3人組の男がこちらに向かって歩いてきて、いつの間にかスッと囲まれた。
正面には、こんないかにも「ヤンキー」という兄ちゃんで、久しぶりにお目にかかったなというくらいの金髪オールバックでジャラジャラとネックレスを付けた男が僕の正面に、両脇には、キュルキュルのパーマを当てた若い男の子と坊主にサングラスを頭に引っ掛けた突っ張った雰囲気の男の子が立ち塞がった。

正面の男の子が、ぐっと顔を近づけて「お金ちょーだい」と言ってきた。
『これが昔世間を騒がせたおやじ狩りか。俺も年をとったな』と少しセンチメンタルな気持ちになるも、この場から逃げないと!と我に返り、「お金持ってないよ、勘弁して。」と答えた。
するといきなり正面の金髪の男の目つきが変わり、僕の胸ぐらを掴んでぐいっと上に持ち上げ、「いーから出せや!」と声を荒げた。
どうしようと心臓がバクバク鳴る。学生時代、かなり真剣に空手をしていたので、男たちの薄っぺらい体を見て、隙を見て攻撃すれば勝てそうだ瞬時に値踏みしつつも『今、この男を殴っても正当防衛になるだろうけど、弁護士バッチが飛んだら困る』と思い、両腕をバンザイするように上に上げた。
そして息を吸い込んで、ゆったりした声を出すように声掛け、
「まじで落ち着こ。落ち着こう。」
と宥めた。すると金髪の男は、僕の胸ぐらをばっと離した。
『おーよかった。分かってくれた。』と安堵した瞬間、男は大きく右手を振りかぶり、僕の左胸に右ストレートを打ち込んだ。
ドッと鈍い音とともに、少し身体に振動を感じた。
『え、今、俺、殴られた?』と思った矢先、なぜか殴った方の男が「いって!!」と叫んで、手首を押さえてうずくまった。どうやら、僕を殴った衝撃で手首を挫いたらしい。お父さんお母さん頑強な身体に産んでくれてありがとう。光風に入ってから順調に太り続け、立派な丸太体型になった我が身にも感謝!
それを見て、両脇を囲んでいた二人の若い男が「何すんだよ!」と責めて来たが、「何もしてないよ、むしろ俺が殴られたわ!」と食い気味に突っ込んだところ、「あ‥まあ、ね。」とバツが悪そうに呟いた。
しかし、僕を殴った金髪兄ちゃんの怒りは治まらず、「いってーな!慰謝料払えや!」とまたもや無茶苦茶な要求をしてきた。
『もう、この状況で何を言っても収まらない。これはもうとりあえず飲むしかない。』と酔いが残った頭でとっさに判断し、僕は兄ちゃんたち3人の肩をポンと叩き、「とりあえず飲もう。俺が奢るから。」と提案。
これに対し、1人の男の子が「金無いんじゃなかったのかよ?!」と鋭い返しをしてきたので、「金は無いけどカードはあるのよ。でもカード取られたら家族が路頭に迷うから勘弁してね。」と言うと、向こうもバカらしくなったのか少し落ち着いてきて、顎をしゃくって、「いーよ、奢ってね。あそこにまだやってる店あるからそこ行こ。」と言って、全員で居酒屋に向かう。ここで4人のあり得ないグループが結成された。

店に入り、とりあえず席に座り、ハイボールで流れで乾杯。
金髪の男から「何してる人なの?」と聞かれたので「こんなんだけど、一応弁護士やってるよ。」と言うと、彼らの僕を見る目が変わるのが分かった。パーマの男の子が、「まじで?すげーっすね!おれも資格取りたいんすけど、金無いし、頭わりーし。」と少し丁寧な言葉になって話し出した。
そこで、僕の高校でのろくでもない生活(教科書の回答集を買い、先生に当てられるとその回答集を片手に黒板に回答を書き写す、数学が赤点連発で毎回特別補修で先生に呼び出されるも自分は文系私大志望なので大丈夫、と言って指導も受けずに帰るetc。)や、大学時代のパチンコにハマって中毒状態だった話をして、「それでもなんとか司法試験受かったから人生何とかなるもんだよ」と話すと、男の子達の目がキラキラ輝き始めた。昔のヤンチャな話をして若者を諭すあたり、俺も本当にオッサンになったなと思いつつも、キラキラした目で熱心に話を聞いてくれるので、どんどん乗ってきてグイグイハイボールを飲みながら気持ちよく話し続けてしまった。
兄ちゃん達も、心を開いてくれたのか、自分の境遇や、今の生活の話など、いろいろしてくれた。
あまりにアルコールを入れすぎたので詳細は記憶が飛んでいるが、彼らも三者三様で複雑な事情があり、流されて現在のくすぶった生活になっているが、なんとか変わりたともがく気持ちがあり、よく話すと3人とも根は真面目でかわいらしい子達だった。
その後、彼らの恋愛トーク等でひとしきり盛り上がり、お開きとなった。
タクシーでそれぞれの家の近くまで送り、握手をして別れた。
連絡先を交換しなかったので、二度と会えないかもしれないが、強烈な思い出をくれた3人には感謝。

自宅に戻り、風呂に入ったら、殴られた胸に痣が出来ていた。
殴られた時は、酔いとアドレナリンで痛みは全く感じなかったが、あいつ、意外に良いパンチを持ってたなと苦笑い。

なかなか遭遇しない貴重な体験だった。東京でもこんなことがあるものなんだなぁ。